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“2000件の反響”が生んだ加速とSHIPの後押し
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静岡県が運営するイノベーション拠点「SHIP」では、地域における起業支援や新規事業開発、DX支援、
デジタル人材やイノベーション人材の育成を目的とした多様な支援を行っています。
本シリーズでは、SHIPを活用し成長・発展を遂げた起業家や企業、プロジェクトの事例を通じて、
SHIPが果たす役割と効果をご紹介いたします。
皆さまの今後のSHIP活用のヒントになれば幸いです。ぜひご覧ください。
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インフラを救うCoolLaser──“2000件の反響”が生んだ加速とSHIPの後押し
橋梁やトンネルなどの老朽化対策に挑む、インフラメンテナンスの株式会社トヨコー。
同社は2025年3月に東証グロース市場へ上場を果たし、今後、国内外での事業拡大と
社会インフラ分野への本格進出が期待されています。
今回、トヨコーCFOの白井元さんにSHIPとの出会いや活用方法を伺いました。
https://www.toyokoh.com/
・世界でトップを狙えるかもしれない
私は最初、会計・監査・コンサルティングを行うPwCで会計士として働いていました。
その後、再生系のコンサルを経て、デロイト・トーマツに入社。企業のコンサルタントや
ベンチャー支援を6年ほど経験しましたが、そのうちに支援するだけでなく、自身も
プレーヤーとなって前線に立ちたいと思うようになりました。
ちょうどそのタイミングで、私の元上司から「トヨコーという会社がCFOを探しているけど、どうかな?」
と紹介してもらいました。
じつはトヨコーを知る前にもCFOを探している企業をいくつか紹介いただいていました。
しかし海外に目を向けた時に、そのどれもが言語や文化の壁を乗り越えるのが難しそうに感じていたんです。
一方でトヨコーは、建設業という大きなマーケットを持ちつつ、かつ日本人がとりわけ強い
光学技術の分野という点で、そのスケール感とアドバンテージに魅力を感じました。
また、特許を取得した先進技術で勝負している点や、製造業の豊かな静岡県に拠点を置いているところなど、
「これなら世界でトップを狙えるかもしれない」という大きな期待を感じたことでトヨコーへ参画を決めました。
・環境にも人にも優しい技術
弊社の主要技術は「SOSEI(ソセイ)」と「CoolLaser(クーレーザー)」の二つです。
SOSEIとは、工場や倉庫で採用されているスレート屋根を補修・補強するとともに、防水や断熱、
防音などの効果を与えるトヨコー独自の工法です。昨今の気候変動で全国のスレート屋根の劣化が
進んでいるのですが、メンテナンスをするとなると大規模な工事になってしまいます。しかし、
工場によっては容易に製造ラインを止めることはできません。
その点で、SOSEIは瞬間硬化する特殊な樹脂を吹き付けることで、短期間で施工が可能です。
CoolLaserは、金属のサビ除去や表面処理を行う最先端のレーザー技術です。
これまでのメンテナンス方法では、サビを除去するために砂を大量にぶつけたり、
剥離剤のような化学薬品を使っていたため大量の産業廃棄物が排出されていました。
しかし光エネルギーレーザーを使用したCoolLaserでは、これらを一切排出しないため、地球環境への
負荷を大幅に削減できると同時に、そこで働く作業者の負荷も大きく軽減されます。
直近の社会課題として、高度成長期に建設された橋や鉄塔、水道管などの社会インフラ構造物の
老朽化が挙げられます。サビや腐食が原因で崩落などの被害が国内外で発生しているのです。
トヨコーの二代目社長は、現場目線でこれらの課題が非常に深刻であると感じました。また、
構造物の維持に必要な担い手が減少している現状を変えなければ、日本のインフラは維持できないと
強く認識し、SOSEIやCoolLaserのような環境にも人にも優しい技術の開発に力を入れるようになりました。
このような技術が認められ、トヨコーは2025年3月にグロース市場に上場を果たしました。
ただこの上場は、私たちにとってのスタートラインに過ぎません。
今後も技術を磨き、社会課題の解決に貢献していきたいと考えています。
・開発中のCoolLaserに2,000件の問合せ
CFOとしての私がこれまで担って来た主な役割は、資金調達とそのリソースの分配です。
また、少人数での運営だったため、人事や経理、採用にも関わっていました。
資金の面で言うと、CoolLaserの開発における資金調達には苦労しました。
しばらくは補助金を活用しながら進めていたのですが、CoolLaserがテレビ番組に
取り上げられたことをきっかけに、一気に約2,000件もの問合せが来てしまって……。
プロダクトが完成していない段階でこれだけの反響があったため、これは人員と資金を本格的に
増やさないといけないと感じ、東奔西走しましたね。
また、技術面では採用にも力を入れていました。日本は光学技術の先進国ですが、優秀な人材は
大手企業に流れてしまいます。そのため、いかにしてエンジニアを惹きつけるかが最初の課題でした。
現在では、セールスに強い人材も採用し、さらに成長が加速しています。
・SHIPがきっかけで技術比較が実現
CoolLaserには非常に可能性を感じています。とくに全国的に老朽化が進んでいる橋や鉄塔、
プラント等のメンテナンスに活用していただけると考えています。
しかし、橋の多くが自治体の管理下にあるので、そのメンテナンスとなると公共工事になってきます。
規模も大きいため、いきなり全面的に施工方法を変えるというのは難しいでしょう。
まずは実証実験(PoC)を行う場が必要です。
そこで静岡県と強い連携関係を持っているSHIPにも相談させていただきました。
すると早速、県の管理担当者の方につないでくださり、それがきっかけで多くの
自治体職員の方々が浜松の研究施設へ視察に来てくださいました。
後に静岡県主導で行われた技術比較のPoCにも参加させていただきました。検証ではドイツや
ベルギーのメーカーも参加したのですが、結果、弊社の製品の作業スピードが圧倒的に速く、
施工品質も高いことが実証されました。
他社との技術比較は、このような機会がないとなかなかできないものです。その意味でも、
インフラオーナーである自治体主導でこのような場を設けていただけたのは非常に嬉しかったですし、
CoolLaserの実力をご覧いただく良い機会にもなりました。
また、おかげさまで提案の対象が官公庁にまで広がりました。
これもSHIPがつないでくれたご縁のおかげです。この場所での出会いがなければ、
静岡での大規模なPoCも実現できなかったと思います。とくに、私のように県外から来て、
県内に人脈がない人間にとっては、本当にありがたい場所だと思います。
・WAVESによる事業の加速と出会い
SHIPの存在は、2024年3月に開催された静岡県主催スタートアップビジネスプランコンテスト
『WAVES』で知りました。
以前、浜松市が行っているベンチャーサポート事業でご支援をいただいたのですが、この経緯もあり、
担当の方から「静岡県がスタートアップ事業の象徴的なイベントをやるので応募してみたらどうですか」
とご案内いただいたのがきっかけです。
WAVESでは、CoolLaserの強みと可能性についてプレゼンさせていただき、
2ndグランプリという評価をいただけました。
イベントにはSHIPの方々も関わっており、そこから相談員さんに悩みを聞いていただくようになりました。
SHIPには先の検証実験の相談以外にも、採用の課題ついても相談させていただきました。
そこでも人事のプロフェッショナルを紹介していただき、採用面の強化を進めることができました。
・世界のインフラメンテナンスに貢献したい
これまで研究開発に重点を置いていたため、現在の拠点ではCoolLaserを月に
1台しか製造できません。そこで昨年、浜松市内に新しい工場を取得しました。
ここでは生産キャパシティが最大で月産10台まで対応可能となる見込みです。
今後は、この新工場の立ち上げを進めていくとともに、販路の拡大を図っていきます。
ありがたいことに、静岡県にはスズキやヤマハ、浜松ホトニクスのような
グローバルカンパニーが多く、流通経路も整備されています。
そんな恵まれた静岡県で、SHIPや県内の企業、自治体と連携し、日本のみならず
世界のインフラメンテナンス分野に貢献できるよう尽力していきます。
・SHIPへのメッセージ
静岡県はスタートアップ支援に非常に熱心に取り組んでいると考えます。
そんな中で、SHIPのように地元との強いコネクションを持つ拠点があることは大きな魅力です。
静岡県の企業で良かったと、心から感じています。
静岡のビジネスは今後ますます盛り上がっていくと確信しています。
ぜひ、これからもSHIPには頑張っていただきたいです。応援しています!